2.4.1 支援理念および制度内容
1998年12月に表明した「経済構造改革支援のための特別円借款」は、景気刺激と雇用促進および経済構造改革に資するインフラ等への支援として、3年間で6,000億円を上限に供与する支援策である。アジア経済の早期回復に向けて景気刺激効果および雇用促進効果が高い事業を推進するとともに、民間投資にとって魅力ある事業環境を整備し、生産性を向上させることで経済構造改革を実現することを目的としていた。特に、物流の効率化、生産基盤強化、大規模災害対策の3分野におけるインフラ整備等のための資金ニーズの手当てを図るものであり、これまでのアジア経済危機支援策に加えて、新たに特別枠として設けられた。
特別円借案件に対しては、借り入れ負担を考慮し、金利、償還期間とも緩やかな供与条件を適用することとするとともに、原則として契約者を日本企業に限定し、アジア経済再生に向けての貢献が期待されている我が国企業の事業参加機会の拡大も図っていた。
事業規模
3年間(但し、2001年12月に、2002年6月まで特別円借款制度を延長することが決定されている)で6,000億円を上限として供与する(各年2,000億円を一応の目安として実施する)もので、本措置は、通常の供与プロセスおよび供与額に影響を与えない特別分として供与するものである。また、非年次供与国に対する通常ベースの円借款供与の実施に影響を及ぼすものではない。
供与条件
金利1パーセント、償還期間40年(据置期間10年)とし、金利水準の動向に応じ機動的に見直し、国際ルール上タイドが可能となる水準に自動的・機械的に決定する。その場合、当該金利水準は、0.75パーセントを下回らない基準とする。
融資比率
事業実施を円滑に進めるため、総事業費の85パーセントまでを円借款の融資対象とする。
調達条件
OECDルール上、可能な範囲で原則として日本タイド。ただし、現地調達によるコスト削減の必要性等に配慮して、2次調達以降は一般アンタイドとする。
対象国
経済危機の影響を受けているアジア諸国等(具体的には、原則として経済危機の影響を受けているアジア諸国)とするが、それ以外の国であっても、経済成長率、失業率等から判断して経済危機の影響を受けており本措置を適用する必要があると認められる特別の理由がある国とする。
対象分野
対象分野は以下のとおりである。
2.4.2 実施実績
特別円借款事業の進捗状況は、2002年3月末現在、借款契約締結に至った案件の総額は約3,760億円となっており、執行の進捗率から見れば63パーセントとなっている。表2-3に特別借款契約締結案件リストを示した。
借入国名 | 案件名 | 交換公文 締結日 |
借款契約 締結日 |
供与限度額 (百万円) |
ベトナム | ハイフォン港リハビリ事業(第2期) | 2000/3/22 | 2000/3/29 | 13,287 |
ベトナム | ビン橋建設事業 | 2000/3/22 | 2000/3/29 | 8,020 |
マレイシア | ポートディクソン火力発電所リハビリ事業(2) | 2000/3/31 | 2000/3/31 | 53,764 |
フィリピン | LRT1号線増強事業(2) | 2000/4/3 | 2000/4/7 | 22,262 |
フィリピン | カマナバ地区洪水制御・排水システム改良事業 | 2000/4/3 | 2000/4/7 | 8,929 |
フィリピン | ミンダナオコンテナ埠頭建設事業 | 2000/4/3 | 2000/4/7 | 8,266 |
フィリピン | 新イロイロ空港開発事業 | 2000/8/25 | 2000/8/31 | 14,724 |
フィリピン | スービック港開発事業 | 2000/8/25 | 2000/8/31 | 16,450 |
フィリピン | 第2マグサイサイ橋・バイパス道路建設事業 | 2000/8/25 | 2000/8/31 | 3,549 |
中国 | 北京都市鉄道建設事業 | 2000/10/10 | 2000/10/23 | 14,111 |
中国 | 西安咸陽空港拡張事業 | 2000/10/10 | 2000/10/23 | 3,091 |
スリランカ | キャンディ上水道整備事業 | 2001/1/18 | 2001/3/30 | 5,151 |
ベトナム | クーロン(カントー)橋建設事業 | 2001/3/30 | 2001/3/30 | 24,847 |
ベトナム | バイチャイ橋建設事業 | 2001/6/26 | 2001/7/6 | 6,804 |
フィリピン | 中部ルソン高速道路建設事業 | 2001/9/13 | 2001/9/14 | 41,931 |
インドネシア | ジャワ幹線鉄道電化・複々線化事業(第1期) | 2001/3/30 | 2001/12/13 | 41,034 |
フィリピン | 地方開発緊急橋梁建設事業 | 2002/3/26 | 2002/3/28 | 18,488 |
フィリピン | 海難救助・海上汚染防止システム増強事業 | 2002/3/26 | 2002/3/28 | 9,356 |
フィリピン | 北ルソン風力発電事業 | 2002/3/26 | 2002/3/28 | 5,857 |
スリランカ | アッパーコトマレ水力発電所建設事業 | 2002/3/27 | 2002/3/28 | 33,265 |
ベトナム | タンソンニャット国際空港ターミナル建設事業 | 2002/3/28 | 2002/3/29 | 22,768 |
出典:外務省JBICウェブサイトデータをもとに調査チームが作成
執行が当初設定した期間内に完了しなかった原因は様々である。特別円借款に対する先方政府および日本側関係者の積極的な展開がなされたものの、フィージビリティ調査実施を経て事業計画の承認、借款契約締結までのプロセスを3年間という期限内で決定するのは難しく、特に、環境問題を抱えるインフラ案件では、住民合意のプロセスを十分に踏む時間が取れないために執行が遅れた案件があった。また、タイド条件で供与を行うため、OECD輸出信用アレンジメント上調整が必要となった案件もあり、さらに借入国の債務負担能力等への十分な配慮の必要性から、日本政府内の検討に長期間を必要とした場合もあった。